デザインは誰のもの?
みなさん、こんにちは。&FRELの杉浦です。9月に入り今年も残り4カ月を切りました。
先日運転中に、雰囲気の良い家具屋さんを見つけました。まだ開店前だったので、どんなお店なのかwebisteから調べてみたところ、いわゆる北欧系の家具を中心に扱っているお店のようでした。Sale品のリンクを見てみると、柳宗理デザインのバタフライスツールも売られており、日本円換算で定価約10万円くらいのものが、2万円弱で売られています。日本で購入してもオリジナルなら5万円以上しますので、それなら買っても良いかなと考えたのですが、掲載されている写真を見るとどうも形状とバランスがおかしく、あまりきれいではありません。どうやら純正品(正規ブランド品)ではないようです。
お店やwebsiteの印象からは、なんとなく純正品を正しい価格でしっかり売るようなイメージがあったのですが、残念ながらそこにこだわって売っているお店ではなかったようです。
バタフライスツールは数多くのジェネリック品が日本にも出回っています。例えば「バタフライスツール」とYahoo検索してみると、たくさんの製品が出てきます。オリジナルは天童木工製で、現行品であれば5万7千円ほどですが、一方で1万円を切る価格のジェネリック製品もあります。
ジェネリック製品とは、意匠権(日本では最大20年、2020年4月1日以降に出願された場合には出願から最大25年間存続)が切れた製品を、権利者以外がつくることのできる権利です。法律的には違法ではありません。
ですが数あるジェネリック製品のサイトを見て、いちデザイナーとして感じることもあります。正規品と比べて品質に差があるのは仕方ないとして、そもそも形状やバランスが純正品と同一でないものをジェネリックとして同等に扱っていいものか?同じ製品名を名乗っていいものでしょうか?
バタフライスツールの場合、その形状的な特徴から多少形状がオリジナルと異なっていても、一般的にはバタフライスツールと認識されてしまう製品です。それだけよく知られていると言えばその通りですが、多くのジェネリック品販売サイトでは、柳デザインとしてデザイナーの経歴まで掲載して、一方で本人のデザインしたオリジナルの形状とは違うものや、素材を変えたものが当たり前に売られている実情は、とても違和感を感じます。せめて、しっかりジェネリック品と記載したうえで売るのが正しいのでないでしょうか。
ちなみにバタフライスツールは、家具として立体商標が認められた数少ない製品です。立体商標とはその製品形状自体が商品やサービスの出所を示す「印」として機能するような製品が取得でき、家具以外だとカーネルサンダースやペコちゃん人形、ヤクルトやコカ・コーラの容器なども立体商標として認められています。
立体商標の特徴は意匠権とは異なり期限がなく、更新さえすれば半永久的に権利を維持できます。この観点から言えば、バタフライスツールも正規品ではない製品は、ジェネリックとは呼べないのかもしれません。
ジェネリック家具に関してとても分かりやすくまとめられている論文がありますので、興味がある方は読んでみてください。
ジェネリック家具について少し否定的な側面を書いてきましたが、一方でジェネリックであることを初めに謳い、ジェネリックでありながらなるべく純正品に忠実につくられたものをセレクトしているショップもいくつかありました。
ルールに従ってしっかりとリプロダクトされた名作を比較的安価に揃えられるのは、ジェネリック製品の一番の魅力で、それを理解したうえで購入するのが正しい楽しみ方のように私は感じます。
ただ見方を変えて考えると、家具だけでも毎年星の数ほどのデザインが世界中で生まれ、そのほとんどは数年で姿を消し、新たに生産されることはなくなります。ジェネリックやコピー製品がつくられるような家具は、それだけデザインに力があり、魅力的であり続けている家具と言えるのかもしれませんね。